無題。
秋です。
実りの秋です。
収穫の秋です。
しかしアレですな。
喋り手たる者「アレ」は言うまいと誓ったあの日。
「ドミンゴ、エフエム富士決まったぞ」
と生まれて初めてレギュラーを獲得出来た電話を師匠から受け取ったあの夜。
私は渋谷におりました。
狂喜乱舞し、すっかり有頂天の極みに達した私は当時同棲していたホステスのお店に
初めて行きました。
彼女に報告するために。
この喜びを一刻も早く恋人に伝えたかったのです。
ホステスの店は貧乏劇団員だった私には高額すぎると知っていましたが、後からホステス
に払わそうと思っていたので、私の有頂天は生き生きと守られていました。
何だかおっかねえ男にジロジロ見られながら入店。
座ると、数々のテーブルがキャーキャー言いながら盛り上がっています。
私なんかより、よっぽどパンチの効いた狂喜乱舞でした。
その中で一番うるさく、男と絡みつくようにイチャイチャしている女性がいました。
彼女でした。
しかも裸同然の格好をしていました。
ホステスだからナイトドレスみたいな服だと思ったのに。
「愛の水中花」の時の松坂慶子みたいな出で立ちだと思ったのに。
一気に天国から地獄に叩き落された私は席を立ちました。
帰ろうとすると、さっきのおっかねえ男が。
座っただけでもチャージ料は発生しているから9000円払えと言うのです。
「きゅ、きゅ、9000円!!??」
その金額は当時の私の2週間分の生活費とほぼ同額でした。
「一銭も持っていない!!」
と某国営放送の受信料請求に「ウチはテレビが無い!!」と同カテゴリーの嘘をつこうと
しましたが、それも出来ず私は財布に奇跡的に入っていた2週間分の生活費を支払いまし
た。
一人帰宅し、意識を失いかけていると夜中ホステスが帰って来ました。
「サトちゃ~~ん」
と甘えてきた女は泥酔し酒臭く、煙草臭もハンパありませんでした。
さっきまで乳放り出して見知らぬ男とイチャイチャしていた女です。
しかし私は自分でも信じられない優しい口調で
「おかえり」
と言い、ホステスの頭をなでなでしていました。
あれから16年。
今日も番組に向かいます。