森雄一の週一エッセイ 第19回「マイ・マイ・マイ」
「マイ〇〇」というものが、盛んにもてはやされた時代があった。
マイ箸、マイボトル、マイバッグなど。変わり種では「マイ七味」
なるものも。オリジナルの七味唐辛子を持ち歩くというものだった。
既製品を購入するのが一般的だが、七味唐辛子をブレンドする店が
あるのだ。私はデパートで開催された物産展で購入したことがある。
普段使いの愛用品を持ち歩くというのは、不思議なことのようで、
実は、自己満足と同時に環境に優しくありたいという気持ちの表れ
という一面もあり、他人(利用する店舗)に負担をかけさせないという、
自然な思いやりが形になっている側面もある。極端な例ではあるが、
旅行に自分の枕を持ち歩く人もいるのだから、これでなくちゃダメと
いうものも、人によってはあるのだ。
私はマイ箸とマイタンブラー、マイバッグは実践し、マイバッグは
完全に当たり前のものとなっている。販売店側はレジ袋消費を減らす
ことができ、経費節減でエコにもつながるわけだ。本や雑貨を購入し、
「そのままでいいです」と店員に告げるときの気持ちよさよ!
「ありがとうございます。」
店員がその一言を口にすると、その場にいい空気が流れる。マイバッグ
一つを持ち歩くだけで、小さな幸せが生まれるのだ。
ところで、中学生のころ(35年も前じゃ~)、所属のサッカー部では
ゴールキーパーだった。ボールがゴールラインやサイドラインを出ると
どちらかのボールになるが、自チームの場合、マイボールという。
ゴールキーパーは常に声を張り上げるので、鬼の首を取ったように、
「マイボール!」と高らかに宣言するのだ。もちろんサッカー解説を
聞いてもマイボールと言っているのが確認できる。サッカーは11人で
行うスポーツなのだから、アワー(our)ボールという考え方もできるが、
俺のだ!と主張することはスポーツマンとして至極当然なのかもしれない。
時に日本語と外国語を組み合わせて、世にも不思議な言葉が出来上がる。
「マイ(私の)・箸」は、日本人だから理解できるもので、外国の人が
聞いても一瞬、理解できないことだろう。マイ・チョップスティックス、
字面を見るとプロレスの技みたい。「マイ七味」も外国人には通用しない。
一方、こちらはどちらも英語なので違和感なし。「マイ・バッグ」。
男っぽく、マイ=俺の、と書くと、「おっ!」と反応する人はいるだろう。
ちまたで人気の「俺の」系飲食店。甲府には「バル」や「串かつ」などが
あるようだ。女性にはベーカリーが人気だそうで、高級食パンなのに
売れまくっているようだ。俺の、なんて男臭プンプンなのに・・・・
いや、だからいいのか。そういえば、男と名の付くもので「男前豆腐」と
いうのも流行ったものだ。
俺の、私の、僕の、自分の、すべて英語では「マイ」。自分が自分がと、
自己中心派は、時に人に嫌われるものだ。ビートルズ最後のアルバム
「レット・イット・ビー」に収録されている1曲で、俺が、俺がと連呼
する「アイ・ミー・マイン」という曲がある。ジョージ・ハリソンが
作っており、当時、不仲だったポール・マッカートニーを揶揄する曲
だとされていた。真実はどうであれ、そんな不満をアートにできるのも
大きな才能だ。いずれにしろ、常に自分が中心にいようとすれば周りから
煙たがられそうなものが、現代では「マイ」、つまりは「俺の」と、
さりげなかったり、自信満々でのぞめば認められる世の中のようだ。
先日、写真入りのマイナンバーカードを作成し、ちょっと嬉しい
モーリーなのであった。